天童よしみ、昨年末の『紅白歌合戦』を語る 「最高や!」発言に込められた大阪への思い【インタビュー】
デビュー52年目となる演歌界の大スター・天童よしみに、突撃インタビューを敢行した。下積み時代の苦労話や新曲『昭和かたぎ』への想いなど、デビューから現在まで余すことなく話を聞いた。
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――新曲『昭和かたぎ』は、とても力強い曲ですね。
天童よしみ(以下、天童)「昭和の心意気と言いますか、大変なことがあっても乗り越えてきた強さを昭和という時代に感じるんです。そんな昭和をイメージした曲になりますね」
――歌詞や天童さんの歌声に、昭和を生きた人の力強さを感じます。
天童「今年は元旦から、あまりにもいろんなことが起きました。元旦だけは平穏にいたいじゃないですか。それを裏切られたような気持ちの方も多いと思います。そういうときに力強い歌、やっぱり演歌や歌謡曲を聴いていただきたいなと思いまして、先陣を切って歌わせていただこうと思いました」
――天童さんのパワーと想いが込められた曲ですね。そんな天童さんの原点を知りたいのですが、歌は小さい頃から好きでしたか?
天童「はい、子供の頃から音楽そのものが大好きでした。美空ひばりさんに憧れていて、歌手になりたいって思う少女時代でしたね。6歳で初めて『素人名人会』(毎日放送)に出て、名人賞をいただいたんです。それで両親も自信がついたのか、あらゆるのど自慢大会に出場しました。優勝したり、チャンピオンになったり。トロフィーを持っている私の写真がいっぱいありますよ」
――6歳にして圧倒的な歌唱力を持っていたようですが、歌は独学でしょうか?
天童「毎晩、お父さんと夕食後に歌の練習をしていました。カラオケがない時代だから、イントロだけレコードを流して、あとはアカペラです。だから私に音感がついたのは、その練習のおかげですね」
――出場する大会では連戦連勝。となると、スカウトから声がかかりそうです。
天童「レコードメーカーのコンクールに出て入賞したりもしたので、デビューのお話はたくさん舞い込んでくるんですよ。でも、全部お断り。母がずっと反対していたんです。母は『騒がれるのはあっという間だけ、大きくなるにつれてどういう子になると思う』と父に言い、父は『チャンスなのになんであの子を伸ばしてやれんのか』と。そんな夫婦喧嘩をよくしていました」
――テレビアニメ『いなかっぺ大将』(フジテレビ系)の主題歌『大ちゃん数え唄』がご自身初のシングルですが、その経緯は?
天童「中学生になって『日清ちびっこのどじまん』(フジテレビ系)に挑戦しました。日本一大会では敗れたんですけど(結果は2位)、そのときにお話がきて初めてレコーディングさせていただきました。それを終えた頃、10週勝ち抜くとグランドチャンピオンになって歌手になれる『全日本歌謡選手権』(日本テレビ系)に出て、グランドチャンピオンになることができました」
――天童さんの本格デビューが決まった番組ですね。審査委員だった元祖ルポライターの竹中労さんが〝天童〟と命名されたとか。
天童「そうなんです。私のデビュー曲『風が吹く』も竹中先生が作詞されました。すごくかわいがっていただいたんですよ。先生は『人間はチャレンジだ』と、いろんな〝肝だめし〟を私にさせるんですね」
――肝だめしですか?
天童「実力だけでは生き残れない、度胸も必要だからつけさそう、ということでした。例えば、キリギリスの天ぷらを食べたり。私が『これ食べる人いるんですか?』って聞いたら『いるよ。チャレンジだ』って」
――実際、キリギリスの天ぷらは食べましたか?
天童「衣だけいただきました(笑)。他には、大阪の新世界に連れて行かれて…昭和46(1971)年ごろかな、今のようにきれいじゃなくて、昼間から〝バクダン〟ってお酒をガーッとあおったおっちゃんが赤い顔で歩いている街でした。そこにタクシーで乗り付けて、『ここから一人で歩いてみい』って言うんです。私、まだ16歳くらいです」
――それは怖いですね。
天童「すっごい怖いですよ。『屋台で飲んでいるおっちゃんたちの前で歌って、涙を流してくれたら本物。それが演歌だから』と。それで新世界を歩いて、おっちゃんたちのいる屋台に行って、『風が吹く』を歌ったんですよ。そしたらね、おっちゃんが涙をボロボロ流したんです。『おっちゃん泣いた!』ってものすごくうれしくて、タクシーに戻って『先生、降りてえや』って言うと『俺はいいよ。泣いたんだろ。お前の言葉を信じる』って。泣いているのを見てほしいのに『分かった、分かった。よし、次に行こう』と」
――そこはちゃんと見てほしいですよね。
天童「でもね、『俺の目の黒いうちは守ってやる』という人でしたから、すごいお世話にもなりました」
――天童さんはデビューしてすぐに人気歌手になったわけじゃなく、苦労した下積み時代があったと伺っています。東京から大阪に帰り、素人さんを相手に歌謡教室をされたこともあったとか。
天童「私は嫌だったんですけど、父が『歌とつながっとけよ。つながっとかんとお前は終わる』と常に言っていましたから。でも、ファンの方から『頑張って』と、励ましの言葉をたくさんいただけてうれしかったです」
――そして1985年、『道頓堀人情』と出会いました。
天童「聴いた瞬間に『この曲を待っていた』と思いました。作詞家の若山かほる先生に、この曲は『東京から左遷されて大阪に来たサラリーマンを応援する、飲み屋のママのお話が基になっている』と伺いました。私にもすごく当てはまるし、私だけではなくて多くの人の気持ちに重なったと思うんですね。85年は阪神タイガースが日本一になった年で、『道頓堀人情』とリンクして、ものすごい盛り上がったんです。大阪が東京に勝つ、負けたらあかんっていう気持ちが噴出した時代でした。あの時代に『道頓堀人情』と出会ったのは運命だと思っているんです。出会わなければ、きっとダメだったでしょうね」
――天童さんの運命を変えた曲だった、と。
天童「はい。父は『この曲、絶対に売れるから、売るんやで』と言い、母も『頑張ってここまで来たんやから』と言ってくれて、3人で手を握り合いました。そのときの、父の手の力強さが忘れられないですね」
――『道頓堀人情』は地道なプロモーションが実を結んで大ヒットとなり、天童さんの代表曲となりました。
天童「阪神タイガースが38年ぶりに日本一になった昨年、大みそかの『NHK紅白歌合戦』は初の大阪中継で、新世界に作られた舞台の上で『道頓堀人情』をまた歌うことができました。歌いながら、私はなんて幸運なんだろうって思いました。だから思わず、予定にない『最高や!』という言葉が出てしまったんですよ」
――高ぶったお気持ちが口をついて出たわけですね。
天童「新世界は竹中先生に肝だめしをさせられた思い出の場所でもあるので、本当は号泣したかったぐらい。若い人たちも行き交う様変わりした新世界で、通天閣をバックに歌えたのは誇らしかったです」
――本当に素晴らしいステージでした。紅白歌合戦には、27回連続(通算28回)で出場されています。
天童「1993年に『酒きずな』で初出場しました。そのあとブランクがあって、97年に『珍島物語』でまた出てほしいとお声がかかりました。この紅白復帰したときは、ものすごく泣きました。歌手になって、こんなにうれしいと思ったことはなかったです。これで本格的に『珍島物語』がヒットしましたし、番組を見て感動したテリー伊藤さんが〝よしみちゃん人形〟を考えてくださったんです」
――ご苦労もなさってチャンスをつかまれた天童さんだからこそ、『道頓堀人情』の「負けたらあかん」の一言にお力があります。2024年も期待しています!
天童「まずは率先して『昭和かたぎ』を売りまくります。ぜひ生で聴いてほしいので、皆さんの元にも伺いたいという思いです。それで1つでも幸せを感じていただきたいですね」
(取材・文/牛島フミロウ、企画・撮影/丸山剛史)
天童よしみ (C)週刊実話Web
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