やくみつる☆シネマ小言主義~『月』/10月13日(金)より全国公開
監督・脚本/石井裕也 出演/宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子、高畑淳子、二階堂ふみ、オダギリジョー 配給/スターサンズ
世間を震撼させた相模原障害者施設殺傷事件から7年。事件の本質的部分が解明されないまま風化の一途をたどっていた気がします。
そこに投下されたのが本作。重度障害者が語り手になっていた原作に着想を得ているものの、脚本も担当した監督によってストーリーが再構築されています。
【関連】やくみつる☆シネマ小言主義~『ロスト・キング 500年越しの運命』/9月22日(金)より全国公開 ほか
本作が優れていると思うのは、あえて犯人の精神状態を深追いしていない点です。実際の裁判では、大麻中毒による判断能力の低下を弁護側が主張しているようですが、そこにも逃げ込んでいません。むしろ焦点は、事件が起きた社会的背景や、誰しもの奥底に潜む「臭いものには蓋をする」習性です。「ある」のに見ないようにしてきた課題を自分にも突きつけられた気がしました。
答えの出ない「命の尊厳とは」に挑む俳優陣は超豪華。宮沢りえ、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみと主役級キャストが並びます。
幼い息子を難病で亡くしたトラウマを背負い続けている元作家の宮沢りえが主人公。生活のために施設職員として働き始めていますが、妊娠していることが分かり、産むか堕胎するかで密かに悩んでいます。
同僚職員の二階堂ふみも実は作家を志していて、現代社会の闇を暴く小説ネタを仕入れるために働いているとうそぶいている。
太陽と比較した“月”の存在
この2人の絡みを軸にしたことで、事件が単なる「狂気の仕業」ではすまないと、作品のテーマを普遍化させています。そして、何と言っても宮沢りえの演技が凄まじい。
10代の頃、篠山紀信撮影の写真集『サンタフェ』で一世を風靡した彼女も今や50歳。抑制の効いた表情一つで、人手不足で虐待や拘束が横行する施設の実情を知った苦悩と葛藤を表現し、見ている我々の胸に迫ってきました。夫役のオダギリジョーもまた「陰キャ」の売れない人形作家。弱い者同士、肩を寄せ合うように生きているこの夫婦に、微かな希望を感じさせるのも石井監督の巧みさですね。
犯人の恋人を聾唖者に設定したり、映画では感知できない汚物だらけの部屋の悪臭を想像させたり、視覚以外の感覚が生々しく刺激されました。
そしてタイトルの『月』。月というのは、太陽と比較して「陰の存在」。人里離れて確かに存在しているのに、人の意識には上がってこない重度障害者施設のような存在のメタファーとして効いていますね。
心にズシンとくる重たい映画であることは確かですが、一切の綺麗事から離れて、目を背けてはいられない「生きるとは何か」に向き合わされる秀作でした。
やくみつる 漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
合わせて読みたい
-
大谷翔平、打ち崩せるか違法賭博 乗り越えなければならない「疑惑の目」と「差別の壁」
2024.04.29 スポーツ -
世界の野球勢力地図が塗り替わる「中東アジアリーグ」設立構想 日本プロ野球界が“MLBの草刈り場”から反撃開始
2024.03.14 スポーツ -
水原一平容疑者“世紀の大ドロボー”からの大逆転シナリオ 米で「暴露本&映画化構想」浮上
2024.04.25 スポーツ -
【コンジンテナガエビ&オオウナギ】沖縄県那覇市/末吉公園(安謝川)産「本当に…本当にありがとうございました。またどこかで…」~日本全国☆釣り行脚【最終回】
2024.04.20 エンタメ -
大谷翔平“10年1015億円”でも「破産」の最悪シナリオ 元通訳賭博問題で一部スポンサーが契約見直しを検討中
2024.04.11 スポーツ -
NHK林田理沙アナ、離婚の真相は…元夫は岡田将生似のイケメンか スピード離婚のNHK女子アナたち
2024.05.29 芸能 -
巨人「松井秀喜監督」誕生は10年後!? 2034年の球団創設100周年に向け、東京ドーム移転構想などで大揺れ
2024.05.23 スポーツ -
「家城茜役は私にとって宝物です」 特撮映画『ゴジラ×メカゴジラ』が俳優人生のターニングポイントに【釈由美子 インタビュー】
2024.06.12 芸能 -
NHK女子アナ“次期エース候補”は3人 現エース不在、パリ五輪キャスター抜擢で絞られた次期看板
2024.06.12 芸能 -
【スズキ】神奈川県横浜市/八景島対岸産「海中ににじむウキの灯り…あらやだ、来ちゃった」~日本全国☆釣り行脚
2024.03.30 エンタメ
合わせて読みたい
-
大谷翔平、打ち崩せるか違法賭博 乗り越えなければならない「疑惑の目」と「差別の壁」
2024.04.29 スポーツ -
世界の野球勢力地図が塗り替わる「中東アジアリーグ」設立構想 日本プロ野球界が“MLBの草刈り場”から反撃開始
2024.03.14 スポーツ -
水原一平容疑者“世紀の大ドロボー”からの大逆転シナリオ 米で「暴露本&映画化構想」浮上
2024.04.25 スポーツ -
【コンジンテナガエビ&オオウナギ】沖縄県那覇市/末吉公園(安謝川)産「本当に…本当にありがとうございました。またどこかで…」~日本全国☆釣り行脚【最終回】
2024.04.20 エンタメ -
大谷翔平“10年1015億円”でも「破産」の最悪シナリオ 元通訳賭博問題で一部スポンサーが契約見直しを検討中
2024.04.11 スポーツ -
NHK林田理沙アナ、離婚の真相は…元夫は岡田将生似のイケメンか スピード離婚のNHK女子アナたち
2024.05.29 芸能 -
巨人「松井秀喜監督」誕生は10年後!? 2034年の球団創設100周年に向け、東京ドーム移転構想などで大揺れ
2024.05.23 スポーツ -
「家城茜役は私にとって宝物です」 特撮映画『ゴジラ×メカゴジラ』が俳優人生のターニングポイントに【釈由美子 インタビュー】
2024.06.12 芸能 -
NHK女子アナ“次期エース候補”は3人 現エース不在、パリ五輪キャスター抜擢で絞られた次期看板
2024.06.12 芸能 -
【スズキ】神奈川県横浜市/八景島対岸産「海中ににじむウキの灯り…あらやだ、来ちゃった」~日本全国☆釣り行脚
2024.03.30 エンタメ